私は、中国へ強い憧憬と尊敬の念を抱いている。それは、私だけでなく。この国を近代化し、新しい国を作り上げてきた、多くの人々も同じである。明治維新を断行し、戦後の復興を担ってきた人々も同じ思いだった。
私は、若い頃、中国の歴史に憧れ、史記や三国志に読みふけり、桃園の誓いに感動し、項羽と劉邦の戦いに胸をときめかした。桃園の誓いに感動し、項羽と劉邦の戦いに胸をときめかした。漢詩を諳(そら)んじ、諸子百家の書物を乱読した。四書五経、孟子、戦国策、貞観政要、左伝、韓非子、商子、孫子、呉子、老子、荘子、墨子と中国古典は、宝庫である。中でも、孫子に感動し、荘子の雄大な世界に圧倒された。
諸子百家の思想の中に、現代思想の全てがある。共産主義にしても、社会主義にしても、墨子的な世界である。
渋沢栄一は、自らが儒教の教科書を著し、福沢諭吉は、浩然の気を養えと弟子を叱咤した。
私は、陽明学にもっとも影響を受けた。
日本人の行動力の根源は、天命であり、革命である。その天命や革命は、中国的な思想である。
だから、日中両国の間にあるわだかまりに心を痛めるのだ。
なにが、その根源にあるのか。それは、中国が中国的な物を切り捨ててきた。切り捨てていこうとしていることである。また、日本人も中国的な物、アジア的な物を適切に評価してこなかった。
近代精神は、欧米だけにあるわけではない。アジア、特に、中国的な物、インド的な物、イスラム的なものにもある。しかし、近代は、その中国的な物、インド的な物、イスラム的な物を不当に低く評価してきた。それが、人類の間に越えられない溝や壁を作り上げている。
中国的な正義、インド的な正義、イスラム的な正義は、前近代的の遺物、アナクロニズムとして排斥されてきた。そして、民主主義は、欧米的精神の上でしか成立しないと勝手に決めつけている。
その為に、欧米以外の国、否、欧米ですら、自国の歴史や文化、伝統が悉く否定され、破壊されている。しかし、民主主義や自由主義、社会主義の芽は、何処の国にもある。むしろ伝統でもある。それを全て、前近代的という口実で否定するのは、傲慢である。
欧米的精神、科学的精神が、歴史や文化に断絶を生じさせている。
特に、唯物主義的な考え方、唯物史観が、中国の歴史を断絶させたことが大きく影響している。
その本質を見ずに反日感情を煽り、日本に近代化に伴う矛盾の責任を押し付けたとしても問題の解決には繋がらない。日本を憎んだところで、中国は良くならないのである。中国が中国の歴史と文化に立ち返り、そこから、自分達の天命を自覚する以外に中国が、中国としてまとまることはできないのである。
中国民族は、偉大な民族である。偉大な歴史や文化がある。その偉大な力を借りて日本は、近代化しえたのである。それは、紛れもない事実である。
和魂洋才。和魂と言うが、その本質は、儒教である。孔孟の教えである。朱子学であり、陽明学である。その基礎的教養があったからこそ、日本は、独立を保ち、近代化を成し遂げることができた。その事実を日中両国の国民は、真摯に受け止めるべきなのである。
中国が、中国人としての真の誇りを取り戻せば、近代化の過程で何が起こり、日中両国民が戦うべき真の相手が見えてくるはずである。
近代化は、追従ではなく、自立から生まれることを忘れては成らない。戦後、日本人は、その根本を忘れている。戦争による、断絶が生じている。それは、民族としてのアイデンティティ、黄色人種としてのアイデンティティ、アジア人としてのアイデンティティの喪失である。
同様に、中国にも、近代化の過程で断絶が生じている。そのとぎれた歴史を今一度つなぎ合わせることが不可欠なのである。
お互いがお互いを罵り合うだけでは、相互の理解も和解もあり得ない。
我々は、誇りを持ってアジア的な物、中国的な物、黄色人種的な物を再生していかなければならない。それこそが真の意味での近代化であり、日中両国の和解なのである。
中国の真の復権の鍵は、中国自身の歴史と文化に隠されている。中国が、自らの歴史伝統、文化をないがしろにするのは、中国のみならず。全世界、全人類の不幸である。中国は、自らの内部の宝にこそ活路を求めるべきなのである。
欧米文明だけが文明ではないのである。
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