為替制度は、金融制度の基幹業務の一つであると伴に、金融制度を成立させた要因の一つでもある。そして、為替制度は、通貨の機能を有効たらしめる基礎・基盤でもある。

 為替(かわせ)とは、手形や小切手、郵便為替、銀行振込などによって金銭を決済する方法である。遠隔地への送金手段として、現金を直接送付する場合のリスクを避けるために用いられる。特に輸出入をする際に用いられている。
 日本では江戸時代の大坂を中心に為替(手形)による取引が発達して、当時の世界ではもっとも優れた送金システムを築き上げた。
 主に内国為替と外国為替の2種類に分けられる。
 内国為替とは、金融機関が、国内の遠隔地で行われる債権・債務の決済を、現金の移送を行わずに決済する方法をいい。
 外国為替とは、通貨を異にする国際間の貸借関係を、現金を直接輸送することなく、為替手形や送金小切手などの信用手段によって決済する方法を指す。  
 また、外国為替を利用した金融派生商品に「外国為替証拠金取引」がある。(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

 近代の国際通貨制度は、金銀本位制、国際金本位制、金為替本位制、ブレトンウッズ体制、スミソニアン体制、変動相場制と言う変遷を経て今日に至っている。(「金融史がわかれば世界がわかる」倉都康行著 ちくま新書)国際金本位制は、内部経済に対しては、中央銀行への無制限兌換が保証されていること、外部経済に対しては、国家間の金輸出入が自由であることなどが基本要件である。そして、各国の通貨当局が金準備に併せて通貨の供給量を調整することが基本的な要件である。(「国際金融の仕組み」秦忠夫・本田敬吉著 有斐閣アルマ)
 金本位制が成立することによって兌換紙幣制度が、確立することになる。そして、ニクソンショックによって兌換紙幣から不兌換紙幣に移行することとなる。そして、不兌換紙幣に移行することによって固定相場制から変動相場制への移行が促されたのである。
 通貨制度を考える上で、重要なのは、流動性と信認、調整の三つの要素である。(「国際金融の仕組み」秦忠夫・本田敬吉著 有斐閣アルマ)

 現代人には、通貨に対する錯覚がある様に思われる。通貨は、交換価値を測る尺度に過ぎない。尺度である通貨の価値を何等かの財に結び付けてしまうと、結び付けられた財の持つ固有の価値に通貨の価値が引きずられることになる。それが、貨幣価値を不安定なものにしてきたのである。

 貨幣とは、それ自体が貨幣としての特性しか持ち得ない物が適している。貨幣の特性は、第一に、交換性、第二に、価値の保存性、貯蓄性、第三に、尺度としての均質性、第四に、流動性、第五に信認性である。
 まず第一に貨幣は、交換できる物でなければならない。交換できると言う事は、転移することが可能で、所有することが可能な物と言うことになる。ただ、この点は、貨幣が情報化されるにつれて物から、一種の信号、情報に置き換わりつつある。次ぎに言えるのは、貨幣は、保存できなければならないという点である。つまり、貯蓄性である。貯蔵、貯蓄できないと貨幣価値は喪失してしまうことになる。故に、貨幣としては、腐ったり、劣化する物は不適である。この点も情報化することによって材質から開放されつつある。第三に、貨幣は、一つの単位として均質性が要求される。第四に、貨幣は、移動できる物でなければならない。第五に、貨幣は、市場の信認を受けなければ、通用しない。つまり、有効性がないという事である。貨幣に信認を与えるのは国家であり、貨幣の信認は、国家への信認である。貨幣に対する信認を失った結果としてみられる現象であるインフレは、国家への信認が失われたのに等しいことなのである。
 これらの特性以外の性格、財固有の性格が付随すると貨幣の機能に何等かの制約が生まれる。現在進行している通貨の情報化は、貨幣を何等かの実物から開放することによって貨幣本来の機能に通貨を特化する効果がある。ただ、同時に、貨幣の信認や通貨の総量を管理することが困難になることも意味している。

 通貨の単位が統一できないのは、通貨が、相対的な尺度である上に、経済単位の内部経済における価値を表象した尺度だからである。個々の国には、個々の国の価値体系がある。その価値体系を決めるのは、個々の国の内部事情であり、通貨は、その内部経済に依拠している。通貨は、内部経済と外部経済を均衡させることによって国際経済との整合性、連続性を保っているのである。

 また、通貨の統一を阻む原因の一つが、通貨の流量管理の当事者が国家であるという事にもよる。通貨の流量をどの様に管理するかは、国家経済を左右する重大な問題である。それでありながら、厳密には、通貨の流量をどの様なメカニズム、仕組みで、管理するかが、明らかにされていない。
 現在、通貨の流量の管理は、行政府と中央銀行、及び、市中銀行が担っている。行政府は、財政活動と国債によって通貨を流通させ、中央銀行は、公定歩合操作と公開市場操作や支払準備率操作などを通じて市中銀行を介して通貨の量を管理している。通貨をの供給は、財政支出と市中銀行貸出による。つまり、市中に流れる通貨は税金と借金が大元なのである。逆に言えば、財政と貸出が減れば通貨の流量は必然的に減少する。

 近代国民国家が成立する以前は、君主国や封建国のような家産国家がほとんどであった。国民国家が成立することになり、社会資本の充実が国家目的の一つになったことにより、財政規模が急速に拡大した。それが物々交換体制から市場経済、貨幣経済へと経済体制を移行させたのである。そして、財政規模の拡大が通貨の流量を急速の増大させ、実物貨幣から兌換紙幣、そして、不兌換紙幣、情報化へと貨幣を進化させたのである。それを可能せしめたのは、中央銀行の設立と機関的独立である。中央銀行が独立することによって貨幣の発券と流通管理が通貨の供給者から分離独立し、通貨の供給と管理が機能的に分離したのである。ただ、問題なのは、通貨の供給源がいまだに財政に依存している点である。

 通貨間の交換価値の調整は、為替の変動として現れる。為替の変動は、成長率、インフレ率、金利、失業率、貿易・経常収支、そして、最終的には、多国間の為替レートと言った複数の変動する基準によって調整されている。

 また、国際市場では裁定取引が働き、通貨の水準は、一定のレベルに調整される。

 裁定取引というのは、通貨間や金利だけでなく、いろいろなところで行われる。それが思わない作用を経済に与えることがある。
 為替市場は、債券市場、先物市場、現物市場、金融市場と密接な関わりがある。そして、これらの市場がインターネットによってリアルタイムに結び付けられるようになってきた。これらの市場の間にも広い意味での裁定取引というのは、行われる。
 2007年の石油高騰の原因の一つにサブプライム問題で株式市況が下落し、それを嫌った資金が現物市場や先物市場に流れ込んだという事がある。

 為替相場を攪乱する要素に多額の資金を動かすヘッジファンドの存在がある。ヘッジファンドでは、ジョージ、ソロスとイングランド銀行との間で繰り広げられたポンドの攻防が有名である。この例が示すように、ヘッジファンドの動向は、為替相場に多大な影響を及ぼす。
 ヘッジファンドとの攻防の末に、1992年9月17日イギリスポンドは、正式にERMを脱退し、変動相場制へ移行することとなる。ポンドは、1995年まで価値を減らし続けた。また、翌年の1993年に通貨危機は、他のヨーロッパ各国に飛び火した。
 1997年には、ヘッジファンドによる通貨の空売りが東南アジアに通貨危機が発生する。その結果、タイやインドネシア、韓国は、IMF・世界銀行の管理下に置かれ、32年間独裁体制をしてたスハルト大統領が失脚する。また、タイのタイのチャワリット・ヨンチャイユット内閣も崩壊する。
 ただ、ヘッジファンドの根本は、為替市場や金融市場に生じた偏りや歪みであり、それは、実体を反映できない市場制度そのものの欠陥の現れだとも言える。いずれにしても国際市場を背景に多額の資金の激しい動きは、時として市場制度や国家制度を破損、破壊しかねない威力がある。それは内部経済に与える影響も例外ではない。

 最近、政府系ファンドの動きが問題になっている。警戒感をあらわにしている向きもある。何分にも、ちょっとした国の国家予算に匹敵する資金が動くのであるから、無理からぬ事である。(2007年12月現在)
 200兆円とも300兆円とも言われる資金が投資先を求めて動けば、経済に与える影響は、絶大なものがある。最近の原油価格の高騰も株式市場の先行き不安から現物市場に資金がシフトしたことも一因だと言われている。
 行政府というのは、投資機関の一種である。何等かの形で政府系機関や、政府系のみならずファンドが民間企業を支配し、所有することはいくらでも考えられるし、産油国や中国、また、シンガポールのような国が豊富な外貨準備金を活用して、政府系ファンドが資産運用をしているのは、衆知の事実である。
 ただ、その場合問題となるのは、政府系ファンドの振る舞いである。政府系ファンドが、政府の代表者として振る舞うのか、政府の代理者として動くのか、資本家の立場で動くのかが重要なのである。
 多くの政府系ファンドは情報を公開せずに、隠密に投資行動をしている。外貨準備金は、国家予算に匹敵するほど巨額であり、運用次第では、世界経済を牛耳るだけの力を持っている。また、経済や為替相場を左右するだけの力もある。
 政治的に活用されても、危険極まりない。特に、それが、国家の利権にかかわるものだけに、不正の温床になりやすく、また、陰謀の謀略に使われるのは必定である。
 それだけなくても情報機関が、秘密裏に国家の資金を活用して活動し、それなりの企業事業を行っているのは衆知の事実である。かつて、日本の財閥が、軍閥を結託して中国の侵略や戦争の原因を作ったとして解体されたのは、歴史的事実であり、日露戦争の澱に、日本の資金が革命家に流れても同様である。

 日本でも外貨準備金を活用したらどうかという議論があるが、米国債を中心にして積み立ててあるために、不用意に活用すると米国債やドル暴落に繋がり、自分で自分の首を絞める形になる。また、外交問題にも発展し、対米関係にもひびを入れかねない。現に、かつて、橋本龍太郎元総理が、アメリカ国債を売りたくなると発言しただけで外交問題に発展した経緯がある。

 投資家というのは、自分勝手で臆病なのである。それが集団心理で行動する。それは、牛の暴走のように、時として、一定方向に走り出す。一旦暴走をはじめると手が付けられなくなり、それを阻止するのが至難な業になることが往々にしてある。

 現在の為替制度を考える上で、忘れてはならないのは、インターバンク市場の存在と基軸通貨、金利の動向である。また、その為に中央銀行の働きにも制約が生じつつある。

 基軸通貨は、金本位制における金のような役割を果たす。ところが、それが一つの国の通貨だと言う事である。基軸通貨による外貨準備高を一定量保有するとなると基軸通貨の流量や信認の問題が重要になる。基軸通貨国は、発券銀行のような役割を果たし、それに伴う義務と利益が発生する。

 現在、基軸通貨は、ドルであるが、ユーロの台頭も無視できない。また、それを政治的に利用しようとする勢力も現れてきた。例えば、イランは、原油の決済をユーロ建てにすることによってアメリカやEUに揺さぶりをかけている。それがドル安の原因となり、石油価格の高騰の要因の一つになっている。

 実質的な金利の最低は、インターバンクで決まるようになりつつある。それにより、公定歩合の機能、役割が薄れてきている。

 経済現象は、熱力学のエントロピーの増大にている。結局、経済作用の一つの方向性は、水準の均衡なのである。為替相場のご多分にもれない。結局、一定の水準に落ち着こうという傾向がある。

 為替相場は、基本的に水準の問題である。円が上がれば、ドルが下がる。円が下がれば、ドルが上がるというふうに、相対的な動きとして現れる。

 為替取引は、基本的にゼロサムゲームだと言われている。つまり、売り買いが常に均衡しているという事である。

 為替の変動は、長期的には、最終的に、購買力平価の比に基づいて調整されると考えられている。ただ、その場合、購買力平価とは何かである。最終的に通貨の水準は、各国の対内購買力の比率、即ち、物価水準の逆数の比率が均衡ところに決まるという考え方である。(マイペディア)ここで問題となるのは、物価とは何かである。また、どの様な仕組み、メカニズムが働いて購買力は均衡するのかである。

 私は、為替の長期変動に影響を与えるのは、人件費の水準と付加価値の構造、構成だと考える。また、それは、その国の民度と市場の状況(市場の置かれている成長段階等)に影響していると考える。それ故に、為替相場は、内部経済(国内経済)に直接的にかかわってくるのだと考える。為替の動向が国内経済の好不況を左右し、また、産業の空洞化を招くのは、それが、物価水準のみならず、労働費の水準や付加価値の構成に直接的にかかわっているからである。創世、成長段階にある国の労働費は、低く抑えられるのが通例である。それによって外部資本を引き寄せ、また、労働集約的な製品の輸出を振興し、先ず、労働集約的な軽工業によって経済基盤を作るのが原則である。その場合、為替の水準によって国内の人件費の水準を相対的に低く設定しうるからである。ただ、今日言われているのは、外部からの資本の導入や国内に資本家を育成し、また、公共の資本を活用して大規模な投資を行うことによって経済成長の過程を短縮することである。いずれにしても、経済が成長過程にある国は、労働費を国際比較の中で低く設定し、また、付加価値そのものを低くすることによって国際的競争力を高め、そこでえた資本を集中的に先端技術に再投資することによって経済成長力を高める。

 ただし、そこで問題となるのは、国家ビジョン、国家構想である。つまり、どの様な国を目指すのかである。そこから国家戦略が生まれる。国家構想がないままに、闇雲に開発型国家を目指せば、国の自然も生活も破壊されてしまう。かといって理想ばかり追い求めても産業は、育たない。また、軍事力を背景にして覇権主義に走っても軍事費によって国家経済を破綻させるだけであり、最悪な場合、国民を戦争の惨禍に巻き込んでしまう。経済発展には何等かの犠牲が伴うことを覚悟して、自分達が何を求めているのかを絶えず確認する必要がある。

 経済にせよ、政治にせよ、軍事にせよ、なんにせよ、根本は、国民の幸せを実現する事にある。いかに、国が栄えても国民が鬱々として楽しまない繁栄は続かない。それは、偽りの繁栄に過ぎない。急激な経済成長や経済変動は、大気汚染や河川の汚染と言った、公害や環境破壊を伴うものである。良い面にばかり目を奪われると取り返しの付かない事態を招くことになる。

 豊かさとは何か。豊かさを決めるのは、その国の人々の価値観やライフスタイル、文化にある。貨幣価値が決めるわけではない。
 衣食住のどこに比重を掛けるか。また、教育費や贅沢品にどれくらいの費用を掛けるか生活水準やその時代、その地域の考え方、価値観に左右される。生活水準や食文化によって違ってくるのである。

 この様な生活水準は、家計の構造として現れる。家計を分析することによってある程度、その国内部経済の構造が明らかになる。

 要は何を基準にして、生活水準や物価水準を測るかである。確かに、贅沢品は、易く手にはいるようになったかもしれないが、日常の生活必需品が高騰し、その日の生活にも事欠くようでは本末の転倒である。
 現代の日本では、六畳一間に生活しながら、高級外車を乗り回したり、量販店の廉価な服を身に纏いながら、ブランド品を買いあさると言うような現象があちこちに見受けられる。それを、高級なブランド品が売れるからと言って豊かさの象徴とすることができると言えるであろうか。

 豊かさも貧困も相対的なものであり、絶対的な基準で測れるものではない。不必要に自分達の価値観を押し付け、強引に制度やライフスタイル、産業構造を変えることは、時と場合によって貧困の輸出をすることになりかねない。市場経済や貨幣経済が未成熟で、内部経済が強固な社会に西欧流の経済的価値観や産業を持ち込めば、その社会に貧富の格差を持ち込み、社会の人間関係そのものを破壊することにもなりかねない。

 経済の根本に、人間関係があることを忘れるべきではない。経済の根本は、国民一人一人の生活の実現である。

 短期的には、金利差、外貨準備、物価水準、経済の成長率などの要素によって調整される。また、為替変動の方向は、資本移動の方向、金利の高低差、経常収支などによって決まる。そして、これらは、政府の金融政策や中央銀行の金利政策に影響される。

 一般に価格は、単価かける量と言う計算式で算出されるが、通貨が絡むと単価に通貨相場の偏倚、バイアスがかかる。それがいろいろな弊害を起こすのである。

 為替の変動で何が問題なのか。よく問題となるのが円高不況と産業の空洞化である。円高になると輸出産業が打撃を受ける。基本的に日本の産業は、原材料を輸入し、加工して輸出する加工産業を主力産業とする日本は、円高による輸出品の価格上昇によって輸出が抑制される。輸入原材料価格は低下するが、それが原価に反映し、尚かつ販売価格に転化されるにまでは時間がかかる。そのタイムラグによって産業が壊滅的な打撃を受けることがある。
 また、国内の人件費の相対的上昇により、コストが割高になる。この様な、為替の変動によるコストの上昇は、通常の経営努力、営業努力では解消できない場合もある。その為に、人件費が低い発展過程にある国に生産拠点が移転する産業もでる。その結果、産業の空洞化が起こるのである。それでなくても、為替の変動は、物価の上昇を引き起こしたり、デフレの原因となる。経済を安定させるためには、為替の安定は不可欠である。故に、為替の変動による弊害を防ぐために、各国は、為替相場の安定を計るための政策をとる。場合によっては、協調して為替相場の安定策を講じるのである。
 
 為替相場の変遷は、産業構造に重大な影響を及ぼす。円高は、産業の空洞化を呼び起こし、日本経済の地殻構造を揺さぶった。この様な為替の相場の変動はなぜ、引き起こされるのであろうか。また、為替の変動は不可避なことなのであろうか。

 それは、金利による資本移動に見られるように、各国の財政、金融政策は、為替制度と構造的に関連しているからである。

 為替には、「不整合な三角形」と言う問題がある。つまり、為替相場の安定、資本移動の自由化、金融政策の自律性の三つは並び立たないという事である。何等かの形でいずれか一つを犠牲にせざるをえないというのが「不整合な三角形」というわけである。(「通貨を読む」滝田洋一著 日経文庫)

 為替は、国際収支の問題でもある。国際収支とは、内部経済と外部経済の均衡の問題である。この様な国際収支には、経常収支と資本収支がある。また、経常収支と資本収支は裏腹の関係にある。(「通貨を読む」滝田洋一著 日経文庫)
 経常収支や資本収支は、財政収支と密接な関係がある。それは、外貨準備の問題とも関係してくる。

 また、経済政策としてとりうる政策には、財政、関税、資本規制、為替政策、貿易規制、増減税政策などがある。ただどの様な政策をとるにしても、それぞれに長所短所もあり、思わぬ所に予期せぬ影響を及ぼすことがあるから、目的を明確にしてそれぞれの担当部署が連携して事を進める必要がある。その際、最も危惧されるのが官庁、官僚機構のセクショナリズムである。

 資本収支が重要な作用を及ぼす以上、為替の安定には、金利政策は不可欠である。また、政策の整合性の観点から国際的な協力、協調も不可欠な要素である。時には、通貨の売買による市場への直接的な介入をする必要がある場合もある。ところが各国の国内事情や政治的思惑が先行し、協調や協力が得られない場合もある。

 しかし、我々は、いずれにしても国際取引における通貨の機能と為替制度の役割を忘れてはならない。通貨の本来の機能からかけ離れたところで為替が何等かの作用をしていることが問題なのである。

 通貨の機能は、交換価値の尺度であり、為替制度の役割は、国際取引における通貨の移動と交換であり、その過程で各国間の交換価値の水準の均衡させることである。

参考

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』ジョージ・ソロスより
 1992年9月16日のポンド危機で、100億ドル以上のポンドの空売りを行なったことで、ソロスはすぐ名を挙げた。イングランド銀行が金利を欧州為替相場メカニズム(ERM)を採用している他の国と比較して引きあげること、またはその国の通貨の変動相場の金利を引き上げることに乗り気でなかったことから、ソロスは利益を得た。最終的にイングランド銀行は欧州為替相場メカニズムから通貨を回収することを強いられた。ポンドは価値を下げ、この過程でソロスは20億ドルと見積もられる利益を出した。ソロスは、イングランド銀行をつぶした男と呼ばれた。

【朝日新聞 2007-10-14】
 ワシントンで19日開かれる主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)の主要議題に、存在感を増している政府運営のファンドの問題が浮上してきた。油価高騰で巨額資金を得た中東産油国や、経済成長で外貨準備をため込んだ中国などが、その運用のためにファンドを設立。欧米や日本企業の大株主になる事例も続出しているからだ。
 これらファンドは、市場では「SWF(ソブリン・ウェルス・ファンド)」と呼ばれ、日本語では「政府系ファンド」「国家ファンド」などと訳される。明確な定義はないものの、株式や不動産投資などで高利回りを志向、安全な資産で運用される外貨準備とは区別されている。その急拡大に市場の関心も高いが、実態はベールに隠されたままだ。
 このため、G7は今回、関係国に情報公開を求めることの是非を協議する見通しだ。海外メディアは、今回の議長国の米国のキミット財務副長官が政府系ファンド問題が「議題になる」と明言したと伝えている。
 また、関係者によるとG7側は大規模な政府系ファンドを持つアラブ首長国連邦やサウジアラビア、クウェート、ロシア、中国など8カ国の当局者らを19日夜の非公式会合に招待。この問題について意見交換するとされる。
 2兆5000億ドル(約290兆円)――。米金融大手モルガン・スタンレーは最近、政府系ファンド全体の資産規模をそう推計し、市場を驚かせた。実際、その巨額な資金が世界経済を動かす発信源となりつつある。
 1兆4336億ドル(9月末)と世界一の外貨準備を持つ中国は、そこから資本金2000億ドルを工面して9月末に国有投資会社「中国投資(CIC)」を設立。これに先立つ5月には、企業買収を手がける米投資会社ブラックストーンに30億ドルを出資する計画を発表して、米国で大きな話題となった。
 日本も無関係ではない。シンガポール政府投資公社(GIC)は4月、プロ野球・福岡ソフトバンクホークスの本拠地球場を保有する企業を買収。すでに米投資ファンドへの投資実績もある。
 巨大資金力を生かした果敢な「攻め」に、先進国側は戦々恐々としているのが実情だ。自国の主力企業がいきなり買収されるおそれがあるばかりか、技術流出や安全保障上の国家間の問題にさえなりかねないからだ。
 9456億ドル(同)と世界2位の外貨準備を持つ日本でも実は、米国債など安全第一の運用方針を変え、政府系ファンドを設立すべきだとの声が政治家らの間に出ている。だが、財務省は損失懸念や急な為替変動への介入のため流動性を確保したいとして強く反対しており、今のところ具体的な動きにはなっていない。

[英フィナンシャル・タイムズ特約、2007年11月13日付]
 政府系ファンド、商品市場へ(11/13)※
 外貨準備などを運用する世界の政府系ファンド(ソブリン・ウェルス・ファンド=SWF)が投資先を商品市場に広げ始めた。長期的な原油高で石油輸出国機構(OPEC)加盟国やロシアなど産油国の収入は拡大。米エネルギー省によれば、世界の石油生産の40%を占めるOPECの2007年の収入は約6580億ドルに達するとみられる。潤沢な資金を持つ政府系ファンドの動きは、原材料の国際価格に大きな影響を及ぼす可能性がある。
 商品市場関係者によると、天然資源へのSWFの資金配分は投資額全体の5%以下とまだ少ない。しかし、ドイツ銀行の推定で世界各国の政府系ファンドの運用資金は3兆ドルを超えており、資金配分の変更は比較的小規模な商品市場の相場形成に影響を与える。
 JPモルガンのエネルギー戦略責任者、キャサリン・スペクター氏は「SWFのデータはなかなか入手できないが、中東や欧州、アジアから相当な資金が商品に流入しているようだ」と語る。世界最大規模といわれるアブダビ投資庁をはじめ、SWF大手ファンドの多くは原油など商品輸出を主な収入源としている。SWFは商品価格上昇で恩恵を受けると同時に再投資で相場高騰に一役買っているとスペクター氏は指摘する。
 商品投資の背後に政治的動機があるのではないかと欧米諸国は懸念する。だが銀行関係者は「商品、特に金への投資はドル相場の下落をヘッジするのが目的だ」と語る。市場の支配力を高めることが狙いではないとの見方だ。
 SWFはプライベートエクイティ(未公開株)や不動産、ヘッジファンドなど代替投資を増やしてきた。「商品投資拡大の目的は分散投資だ」と米大手銀行も指摘する。インフレ率が上昇すれば企業収益や株価が下がるほか金利上昇で国債や社債の相場も下落する。商品で運用すれはインフレによる資産の目減りを回避することができる。

[毎日新聞 2007年11月15日 東京夕刊]
特集ワイド:1バレル=100ドル目前、原油価格が高騰 忍び寄る石油危機
 原油価格が上がっている。1バレル=100ドルは目前。なぜ急激に値上がりしたのか、その結果どんなことが起きるのかを考えてみた。【西和久】
 ◇「先物」でマネーゲーム
 世界の原油価格の指標となっているのが、米ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)の先物価格。今月7日朝の時間外取引で、米国産標準油種(WTI)の12月渡しが1バレル=98・62ドルをつけ、過去最高値を更新した。WTIの先物価格は今年1月には、50ドル台あたりだったが、そこから倍近くに上昇したことになる。
 14日の終値は94・09ドルまで下がったが、「一時的には100ドルを上回る可能性もある」(吉田健一郎・みずほ総合研究所シニアエコノミスト)と見る関係者は少なくない。
 なぜ原油価格が上がるのか。市場では▽米国の原油在庫の減少▽OPEC(石油輸出国機構)生産量の不足▽トルコによるイラク北部のクルド人に対する越境攻撃の可能性(地政学リスク)−−などがその理由としてあげられている。ところが、米国や世界の原油在庫は減っているものの「水準としては豊富」(吉田さん)。OPECは9月に増産を決めたし、中東などの地政学リスクはいまに始まったことではない。
 それよりも、これらを材料にして先物市場に流れ込んできた投資・投機マネーの動きのほうが問題なのだ。そのことを端的に示しているのが、急激な価格上昇の始まりが8月下旬からだったこと。米国のサブプライムローン(低所得者向け高金利住宅ローン)問題で、世界が大騒ぎした後だ。米欧日の株式市場が暴落した直後には原油市場もいっしょに下げたものの、1週間ほどして原油のほうは上げ始めた。
 ヘッジファンドなどの投資・投機マネーが、サブプライム問題をきっかけに欧米の証券市場から資金を引き揚げ、原油、金、穀物などの商品市場などに振り向けたといわれている。実際、NYMEXの原油市場では、サブプライムが問題視され始めた6〜7月ごろから投機筋の未決済残高が増え始めた。さらに値上がりにつれて、欧米の年金マネーが再び入り始めたといわれている。ドル安もこうした動きに拍車をかけている。
 結局、「株式市場のマネーゲームがそのまま移ってきて、原油価格を上げている」(石井彰・石油天然ガス・金属鉱物資源機構首席エコノミスト)ということだ。
 原油価格の上昇で何が起きるか−−。もっとも心配されるのは、物価上昇=インフレだが、それだけではない。深刻な副作用もあるようだ。
 (1)オイルマネー
 ここ3〜4年の原油の値上がりで、オイルマネーの存在感が急激に大きくなった。オイルマネーとは、産油国が石油を輸出して稼いだお金のうち、海外に投資されたもので、ほとんどがドル建て。中東産油国が中心だったが、最近はロシアなども膨らんでいる。
 その総額やどのような投資・運用を行っているかは、なかなかつかめない。国際金融情報センターの川崎龍一・主任研究員によると、ざっと6割が「国富ファンド」(SWF)と呼ばれる政府による公的な投資。川崎さんの調査では、UAE(アラブ首長国連邦)のアブダビ(運用資金5000億〜8750億ドル)、サウジアラビア(同3200億ドル)、ノルウェー(同3100億ドル)、クウェート(同1500億〜2500億ドル)などが大どころだという(数字は推計を含む)。
 また、最近目立つのが、日米欧の企業を買収するケースだ。中東の政府系ファンドや投資会社が日本企業と争って、米高級衣料専門店のバーニーズ・ニューヨークを買収したり、日本のコスモ石油に20%出資して筆頭株主になるなどしている。
 それだけではない。現在値上がり中の原油先物市場にも、どの程度の規模かはわからないが、ヘッジファンドを通じてオイルマネーが入ってきているといわれる。オイルマネーが原油の価格をつり上げる可能性さえ指摘されている。
 (2)資源ナショナリズム
 原油価格の高騰をきっかけに産油国で高まってきたのが資源ナショナリズムの動きだ。産油国が石油という貴重な富をメジャーなど海外資本から奪い返そうという流れだ。先んじたのが、ベネズエラのチャベス大統領。05年以降、米欧石油企業が支払うロイヤルティーを一方的に引き上げたり、開発権益を取り上げるなど、外国資本の排斥を始めた。
 こうした動きは、ボリビア、エクアドル、アルジェリア、ナイジェリア、インドネシア、チャド、イラン、ブラジルなどと世界に伝染。さらに問題なのは「産油国の資源ナショナリズムが消費国のそれを誘発したこと」と石油問題に詳しい岩間剛一・和光大教授は指摘する。
 中国やインドなど石油消費が拡大しつつある輸入国が、エネルギー資源の確保に走り出している。中国は、各地の石油・天然ガスの権益をめぐってインドと競合し、ロシアの東シベリア油田からの石油の買い手として日本と競争している。さらに、資源ナショナリズムで反米を掲げるベネズエラにも中国は入り込んでいる。
 (3)油田開発ストップ
 資源ナショナリズムの高揚は初めてではない。73年の第1次石油ショックのときのOPEC諸国がそうだった。世界の石油を支配していたメジャーから中東産油国が価格支配権を奪い返したのだが、その後に何が起きたか。メジャーは非OPEC諸国での油田開発に積極的に投資し、供給を増やす一方で、消費先進国は代替エネルギーや省エネ技術の開発で需要を減らした。その結果、80年代半ばに原油価格は暴落し、その後90年代を通して低迷した。
 では今回はどうか。原油価格が上がっているにもかかわらず、「欧米石油会社による油田開発のための新規設備投資はほとんど伸びていない」と石井さんはいう。西欧石油会社が投資をしないのは、資源ナショナリズムに阻まれて油田開発の権益をとれなかったり、とれても条件が悪いからだ。
 また、石油事業者の大半は、現在の価格は異常に高く暴落の危険があると感じており、採算の劣る開発には手を出さない。産油国側は、現在生産している石油の値段が上がることに満足してしまい、稼いだお金を再投資ではなく国内で福祉などに使うケースも多いという。
 石油の開発は短期間でできるものではない。既存の油田には寿命があり、新規油田の本格生産までには5〜10年かかる。ということは、いま油田開発しておかなければ、しばらくすると世界の石油供給能力が落ちることになる。一方で、中国やインドなど新興経済諸国は確実に発展していく。油田開発投資を怠ったツケによる需給の逼迫(ひっぱく)−−「本物の石油危機が忍び寄っている可能性がある」と、石井さんは警告する。

[フランクフルト 2007年11月26日 ロイター]
 国際通貨基金(IMF)の首席エコノミスト、サイモン・ジョンソン氏は、新興国や資源国が石油輸出などで稼いだ外貨を運用する政府系ファンドについて、その動向を注視する必要がある、との見方を示した。
 ソブリン・ウエルス・ファンド(SWF)とよばれる政府系投資ファンドの運用資産は、2兆5000億ドルと推定されており、ヘッジファンドの運用資産を上回る。モルガン・スタンレーはSWFの資産規模が2015年までに、米経済とほぼ同規模の12兆ドルに拡大する可能性がある、との見方を示している。
 クウェート、アラスカ、アラブ首長国連邦は、石油輸出の収益減に備え数年前、政府系投資ファンドを設立。IMFはそうしたファンド設立を支持した。
 世界的な貿易の伸びや原油・資源輸出による収益の運用拡大を背景に、こうしたファンドの数や資産は膨れ上がった。ロシアやノルウェーは年金目的のファンドを設立している。中国も外貨準備運用の高リターンを目指し、専門機関の設立に着手した。こうした政府系ファンドの大半は、ポートフォリオの資産配分や投資戦略についての情報をあまり開示していない。
 ジョンソン氏は「中身の見えない箱を通過する資金の流れが増している。ヘッジファンドやソブリン・ウエルス・ファンドはそうした箱に相当する。何が起こるか確認できず、懸念事項だ」と語った。
 同氏は、過去におけるソブリン債のデフォルトや、一部トレーダーの不正取引で証券会社が破たんした例、為替相場での投機的な動きなどが世界経済の混乱を引き起こしたということを踏まえ、政策担当者はこうした政府系ファンドの動向を注視する必要がある、との見解を示した。
 IMFは、こうしたファンドが金融システムにもたらす可能性のあるリスクの評価に向け、情報収集を開始したという。
 同氏は、ファンドが活用している可能性のあるレバレッジの規模は主要懸念で、特にその国のソブリン格付けを利用して高リスク投資の資金を調達した場合にレバレッジの規模が問題となり、極端な場合、ファンド破たん時に、ソブリン債のデフォルトにつながる可能性があるとの見方を示した。
 政府系のファンドが市場で活用するレバレッジの規模は大きい、とし「こうしたファンドの投資戦略やレバレッジは何かはわからない」と語り、そのことについての懸念が高まっているとの見方を示した。
 一方、ノルウェーはファンドの投資先やその変更についての情報を開示していると指摘。今後どれだけのファンドがノルウェーと同様の動きに追随するかが課題、との見方を示した。

[産経新聞社 2007年11月4日(日)02:56]
【円・ドル・人民元 通貨で読む世界】原油高騰…裏に米欧通貨代理戦
 石油業界各社はこのほど原油代金を円でイラン向けに支払い始めた。石油輸入の円建て決済は「史上初」(新日本石油)という。
 国際石油市場はこれまでドルの独壇場だった。石油のために世界中がドルを必要とするから、ドルは世界の基軸通貨の座を保持できる。米国からのウラン濃縮中止要求を拒絶するイランはそこに米国の弱点をみる。ドルに代わる国際標準通貨として台頭しているユーロを使い世界的なドル離れを促す戦略をとっている。イランを舞台にしたドル対ユーロの代理通貨戦争であり、日本側は円建て決済の形でいわば「中立」の構えをとった。
 イランの石油輸出は日量約250万バレルで日本はそのうち約50万バレルを輸入している。イラン原油価格を1バレル=80ドルとすれば、年間で146億ドル、日本円で約1兆6644億円(1ドル=114円で換算)になる。石油価格が上昇せず円の対ドル相場が10%上昇すれば、石油業界は為替対策をしなくても1664億円だけ支払い負担が軽くなる。
 しかし、日本としては「同盟国」米国を刺激するのだけは避けなければならない。「本件は政治的になることだけはまっぴらゴメン」(新日本石油幹部)である。
 産油国でドル支配に反旗を翻した一番手はかのサダム・フセインである。彼は2000年11月に国連の管理下に置かれていたイラクの石油輸出代金収入による人道物資基金をユーロ建てに置き換えた。最大の石油輸出国サウジアラビアも2002年8月、ユーロ建て輸出を検討する動きが表面化した。サウジまでもフセインに同調すれば産油国全体に波及する恐れが生じる。
 グリーンスパン前米連邦準備制度理事会(FRB)議長が最近出版した回顧録で「イラク戦争は主に石油が目的」と指摘した。「私にはイラクのフセイン大統領が中東原油を支配しようとしていることが明白に思えた」というわけである。
 イランはフセインよりも用意周到である。2006年3月に、ユーロ建ての石油取引所の設立計画を打ち上げた。価格もユーロ建てにする完全なドル駆逐作戦だった。
 だが、結局実現できないままになっている。フランス、ドイツなどユーロ各国はもちろんユーロ決済は歓迎するが、イラン支持はそこでやめた。ユーロ石油市場設立には協力せず、さらにウラン濃縮反対で対米関係に配慮した。
 サウジアラビアなど他の中東産油国はイランに追随する気配はない。その背景は、対米関係を優先する政治的配慮ばかりではない。石油価格が上昇する限り、産油国はユーロ建てにしなくても石油収入の目減りを防げると計算できる。米国はサブプライム・ローン危機をきっかけにドル札を市場に垂れ流すドル安政策をとっているが、投機資金の流入でドル建ての石油相場がドル安を上回るペースで急上昇しており、産油国の収入は増えている。
 イランの挑発に乗らないよう産油国をドルにつなぎ止める代償は石油価格の急騰とも言える。結局ツケは米国のみならず日本を含め石油消費国の消費者が払わされる。(編集委員 田村秀男)

[産経新聞社 2007年11月28日(水)03:34]
産油国ドル離れ加速 「バスケット」移行も
 原油高、ドル安をめぐって、サウジアラビア、アラブ首長国連邦などペルシャ湾岸6産油国でつくる湾岸協力会議(GCC)の動向が注目を集めている。GCCが12月3、4日にカタールで首脳会議を開き、各国通貨のドル連動(ペッグ)を維持するかどうかを協議するからだ。GCCがドルペッグをやめれば石油輸出国機構(OPEC)が原油のドル建て表示を見直すことにもつながりかねず、GCC会議の行方に目が離せない情勢だ。
 「サウジ当局も明確に通貨制度の変更を検討し始めたようだ」
 GCC事務局のウワイセグ研究・経済統合部長は今月20日のサウジアラビア地元紙にドルペッグの見直しを示唆した。
 GCC各国ともドル安に伴い自国通貨も下落。輸入品の価格が上がってインフレが進行しているため、米国に従って利下げを続けることが難しくなっている。インフレを抑制するには利上げが必要だが、安全保障を含めた米国との親密な関係を考えれば、勝手な利上げには動けない。GCC諸国は、相矛盾する政策の選択に悩んでいる。
 だが、メンバーのクウェートは今年5月にドルペッグをやめ、ドルやユーロ、円などを加重平均した通貨バスケットに連動する制度に切り替えている。2010年の通貨統合をめざすGCCとしても、バスケット連動への移行を真剣に検討せざるを得なくなってきた。
 こうした動きは、原油高騰とも関係する。今月16日にサウジで開かれたOPECの閣僚会議で、ドル安が議論された。イランやベネズエラの閣僚らから原油価格のドル建て表示を通貨バスケット表示に切り替えるよう提案された。ドル安で原油収入やドル資産が目減りし、産油国に不満が高まっているからだ。会議では結局、通貨バスケット採用の是非を12月5日のOPEC総会前に検討することになった。
 一方、産油国のドル離れの動きに米国は公式には何ら反応を示していない。市場関係者の間では、今後の米国の対応をめぐり、「ドル離れを許さずGCCに圧力をかける」という意見と「通貨バスケットを容認する」との見方が交錯する。
 産油国で通貨バスケット制が採用されれば、ドル建ての石油取引が減るため、ドル安は一段と進むことが予想される。石油を売ってもうけた資金をドル建てで運用し、巨額の経常赤字を抱える米国に供給してきた資金の流れが変わる可能性もある。米国債が売れなくなって長期金利が上がることも考えられる。
 しかし、米国はドル安でも、経常赤字を補填(ほてん)する海外からの資金流入が担保されれば不満はない。バスケット制によって、投機筋の直接的な相場への影響が和らぎ、むしろドル安が緩和される効果も期待できる。しかもドル安は米国の輸出企業にとっては有利だ。「経常赤字の抑制にはドル安が有効」(ハバード米コロンビア大教授)との意見も根強く、世界の経済不均衡の是正につながるならGCCの通貨バスケット採用はむしろプラスと考える可能性が高い。(編集委員 気仙英郎)


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