経済の現状

日本経済の現状について

3 バブル



バブル崩壊後20年近く総所得は変わっていない。と言うよりここ数年減少に転じつつある。それが日本経済を活性化できない最大の原因である。
総所得が変わらないという事は、全体の所得が変わらないという事であるから、誰かが所得を増やす事は、誰かの所得を減らすことになる。
人件費を上げ、物価を上昇させれば景気がよくなるという発想は短絡的である。総所得がよくならないかぎり景気は改善されない。

個々人の所得を増やしても全体の所得が変わらなければ、単に格差を広げるだけに終わる。全体の所得を上げるためには、総生産をあげなければならない。総所得というのは、総生産と一体的関係だからである。同時に総支出も増やさなければならない。総支出は、単に量だけでなく、質も大切になる。経済を考える時、生産の効率ばかりを取り上げがちであるが、経済を主導するのは、消費のあり方である。消費こそ生活に直結しているからである。だからこそ、所得、生産、消費は一体となるのである。
部分的所得を増やしても全体の所得が変わらなければ総所得は増えずに偏りを生むだけである。

総生産をあげるのは、投資である。投資を促すのは、総資産である。資産価値,特に、地価が上昇に向かわないかぎり、投資は促進されない。いくら人的投資と言っても人的投資には実体が伴わない。個人の能力を実体化するというのは困難なのである。つまり、物の価値が裏付けとして上昇しないかぎり投資は促進されない。物の価値は物価だけを意味するのではない。大切なのは、生産手段としての価値である。

総所得が一定だと高齢者と言った弱者、中小企業といった生産性の低い人達の処にしわ寄せが行く事になる。
弱肉強食の時代なのである。競争社会ではない。競争社会ならたとえ他人より遅れたとしてもゴールに辿り着くことは可能であった。弱肉強食というのは食うか食われるか,生きるか死ぬかの問題なのである。弱者は強者の餌食になってしまう。

そして、格差社会になる。格差が広がる事で社会的な緊張関係が高まる危険性がある。
現実に企業を規模別の営業利益率で見ると企業格差は拡大する傾向にあり、資本金一千万未満の企業は、バブル崩壊後急速に業績を悪化させ、1998年以降は、赤字基調になっている。(図3-1)

バブル前とバブル崩壊後とは表裏を為している。
バブルの影響を検討するためには、バブルと言う現象をどの様に定義するかが鍵を握っていてる。
バブルはなぜ発生したのか、バブルはどの様にして崩壊したのか、そして、その後どの様な施策をとられたのかを検証する必要がある。
その為には、日本のバブルが何に起因し、また、バブル起点としているのかを明確に設定しておかなければならない。
バブルの起点と見なされるのは、プラザ合意に始まる為替の変動、即ち、円高デフレである。

経済変動には何らかの節目が存在する。その節目で日本の経済に決定的な影響を与えてきた要因は、石油価格の動向と金利や為替の動向といったて金融の動向だといえる。

1985年9月にニューヨークののプラザホテルで開催されたG5でドル高是正の取り決めがされ、それから,急激な円高が始まる。プラザ合意の前年1984年には250円台だった為替がプラザ合意後1988年には、120円台にまで落ち込んだ。

その円高と円高対策が合わさって日本は地価と株価に代表される資産価値が急速に上昇する。所謂バブルである。
日経平均株価は1089年(平成元年)12月29日の大納会で、史上最高値38,957円44銭をつけ、その後下落へと転じる。
地価は、やや遅れて1991年に天井をついたと言われている。

85年92万社だった欠損企業が、89年に総量規制が出され100万社を超えたあたりから急激に増加し90年に110万社、91年には、122万社、92年には、139万社、93年には、149万社、94年には、156万社になった。

80年に2,864兆円だった国民総資産は,80年代にはいって急速に立ち上がり、90年に7,936兆円をつけるとそれから8,000兆円前後を横ばいしている。ただし、注意すべきなのは、金融資産残高が、90年に、4,456兆円、05年に6,050兆円上昇しているのに対して非金融資産が、90年に3,481兆円から05年2,453兆円とほぼ15年で1,000兆円以上減少している点である。
又、土地等を表す有形固定資産は、90年に2,479兆円とピークを付けた後、09年に1,209兆円と2分の1になりながら下げ止まらない状態にある。

日本の六大都市の市街地の地価は、80年代に急速に上がり1990年3月にだされた不動産向け融資の伸び率を総貸出の伸び率以下に抑える総量規制と不動産業、建設業、ノンバンク(住専含む)に対する融資の実態報告を求める三業種規制によって1991年にピークを迎えた。

80年を基準にすると11年間で商業地では6倍以上にもなり、住宅地でも4倍弱も値上がりした。それが91年を境にして急速に値下がりをし2005年に平均で80年並みの水準で一旦底を打ったかに見えたが、2007年をピークにして又下がり始めた。見方を変えれば、地価は、ピーク時から見て商業地では6分の1に下がったとも言えるのである。
日本の金融機関は、バブルの崩壊以前は、担保主義を前提とし、地価が右肩上がりの時は、償却資産以外の借入は、地価の含み益を担保として行われていた。新規投資の多くも地価の含み資産を原資としていたのである。(図3-2)
つまり、投資、地価の上昇、資産価値の上昇分を担保にして再投資という循環だった。
それがバブル崩壊後は含み益が一転して含み損になり、その結果、担保不足に陥り、新規投資の足かせになっているのである。
担保不足は不良資産を売却したとしても解消されず、担保不足に陥った不良債務は温存されたまま残されている。この問題を解決しないかぎり、成長に転換することは出来ない。
担保不足に陥った債務を解消する手段は、資産価値、特に、地価の上昇か、収益による不良債務の返済しかないのである。不良債務の存在は、金利上昇の足かせにもなっている。(図3-3、図3-4)

分配の歪みは、通貨が循環する過程で生じる。個々の経済主体では、貨幣の循環の原動力は、入金、出金によって得られる。赤字か黒字かは、結果である。肝心なのは、何が原因で収支の不均衡が生じるのかなのである。それによって是か非かが明らかになる。赤字だから悪い、黒字だから良いと最初から決めつけるべきではない。収支の仕組みが大切なのである。

ゼロ金利だというのに、投資が抑制されているのはなぜか、その点に関する考察なくして経営者に投資意欲がないからと決めつけるのは短絡的すぎる。
金利が投資による収益率より低ければ事業家は借金をしてでも投資に資金を振り向ける。要するに、いくら金利が低くてもそれに見合う収益を上げられる投資がないか、資金の調達コストが金利より高いから事業家は投資を控えるのである。その投資に対する疎外要件を解消しないかぎり、投資状況は改善しない。
その上、借金を返済しても投資先が見つからなければ、金融資産に資金を向けられる。担保価値の下落に伴って有利子負債を返済してもその分対称的に金融資産が積み上がるのである。金融資産は金融機関から見れば有利子負債である。

国民経済計算では、負債と金融資産は、同次元に扱われる。負債を返済しても返済された資金が市場に供給されないと金融資産と積み上がり、有利子負債と同じ働きをする事になる。

要は、供給した通貨の量をどの様に制御するのか、問題なのである。単純に借りた金は返せば良いというのではなく。回収された金をどの様に使うか、即ち何処へ流すべきか肝心なのである。

バブルとは何だったのか。多くの土地成金が我が世の春を謳歌し、日本中の人間が大金持ちになったような心地に酔い痴れていた。
問題なのは、その時、日本人は、日本人本来の姿を見失い。未だに、日本人が古来から受け継いできた美徳を取り戻せないでいるのではないだろうか。

バブルの時代は、金に飽かせて自然や環境を破壊し、ゴルフ場だリゾートだと乱開発をした。そのツケが金銭面においては、財政や民間企業の貸借対照表に大きな傷を残している。ただ大切なのは、お金以上にあの時代の乱開発が日本人の心に重くのし掛かっているように思えてならない。

バブルの最盛期、日本人は、豊かになったと錯覚した。しかし、それは真の豊かさではなかった。では豊かさとは何なのか。その答えに我々が次の時代に向けて目指すべき事が隠されている気がする。




図3-1


図3-2

ダウ式とよばれる連続性維持の為の調整を行った47都道府県の地価公示の最高価格地(住宅地・商業地)の平均価格の指数である。
昭和49年1月の地価公示47都道府県の最高価格地の算術平均より算出を開始し,昭和49年の平均価格を100として各都市の平均価格について指数化を行った。


図3-2

2000年国民経済計算書 内閣府  単位10億円

図3-3

2000年国民経済計算書 内閣府  単位10億円

(図3-4)
プラザ合意からバブル崩壊まで


企業法人統計  百万円

  
企業法人統計

  
公示47住宅指数 公示47商業指数


日本銀行 単位 1億円



       

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