時    間


償却という概念


 償却というのは、会計的概念である。この償却という概念は、資産に対する概念だが、それに対応するのが負債の返済という概念と、損益に伴う資金の収支の概念である。そして、それぞれが償却構造、返済構造、収支構造を持つ。これらが産業に重大な影響を与える。

 償却という思想を考える場合、償却と同じ機能を持つ、又は、代替的機能、相関的機能を持つを持つ概念と引き比べる必要がある。

 償却の概念を考える上で比較する概念は、第一に、非減価償却資産の構造である。第二に、負債構造。第三に、賃貸構造。第四に、預金構造。第五に、税における償却構造である。第六に、損益構造、原価構造に与える影響である。

 そして、この六つの構造の整合性がとれていないが為に、非償却資産が償却されずに負債として残ってしまうと言う点である。その負債を均衡させるために、新たな借入をしなければならないという事になる。それが、損益構造を歪めてしまうのである。また、資金計画と損益計画との均衡がとれなくなる。しかも、税が所得を基礎としているために経費として処理することが出来ない。また、負債の元本の返済が貸借上の処理のために、収益と返済との整合性がとれなくなる。これらが長期的に累積して経営を圧迫してくるのである。

 経済は、この様な経済主体の長期的時間構造を踏まえたうえで制度を構築すべきなのである。

 償却は、資産の側の振る舞いであり。借金の返済は、負債の側の振る舞い。株の動きは資本の振る舞い。納税額は、所得の振る舞いである。それぞれが独自の基準で動いている。しかも必ずしもその整合性、均衡がとれているわけではない。例え、自前の資金で資産を購入しても資産と負債、資本が均衡するとは限らない。

 減価償却の前提は、第一に、減価償却資産に分類されていることである。第二に、減価償却率の計算方法が、公正妥当な式として確定していることである。正し、この計算式は、唯一とは限らない。第三に、償却期間が設定されている必要がある。また、第四に、税制による減価償却と会計による減価償却の区分が明確になっていて、その整合性がとれていることである。
 減価償却を成立させる要素は、第一に、償却期間。第二に、償却率。第三に、残存価値である。
 償却の計算は、以下のような構造を持っている。
 減価償却費=取得原価×償却率+残存額

 償却資産は、通常、借入によって購入される。故に、償却と借入の返済は、本来対の関係にある。借入の返済は、負債構造を構成する。
 負債構造は、債権、債務、利息からなる。これに、時間が関係してくる。また、この負債に相当する担保が通常設定される。担保とは、将来の現金収入を生む財である。この担保を裏付けるのが資産、特に、非償却資産である。この非償却資産の評価が一定して居らずそれが不良債権を生む原因となる。
 借入を構成する要素は、元本と金利と返済期間、そして、返済方式である。それによって負債構造は成立する。
 返済総額=借入額+金利
       =返済額(一回あたり)×回数(時間)

 自動車の販売台数が急激に落ち込んでいるが、その原因の一つにローンが組めなくなった事があげられている。ローンがなぜ組めなくなったのか、逆に言うと、なぜこれまでローンが組めたのかが、問題なのである。
 それは、ローンの時間構造をどれ程度、考慮したかと言う事と人生設計やライフスタイルをどの様な価値観によって、つまり、何を信じて設計したかに依るのである。
 この様なローンの時間的構造を考える場合、所得と蓄え、資産内容を基礎として借入にたいする資金の時間的構造を検討して組み立てられなければならない。
 その土台は、長期にわたる一定の継続的な所得の存在である。それこそが信用制度の基礎にあるべきものなのである。
 ローンの総貨幣価値は、その時点、時点に支払われるべき現在的貨幣価値(キャッシュフロー)×時間=財の貨幣価値+金利によって計算される。

 借入を考える場合は、その対極にある預金も検討する必要がある。貯金も負債も貨幣価値を貯めるという意味では同質である。構成する要素や構造は同じである。ただ、貯金が現在の価値を繰り延べているのに対し、借金は、将来の価値を先取りしているのである。

 預金も負債も消費すると減価する。

 預金=預入金+金利
 預入金と金利は、時間の関数である。

 償却資産に対し、同じ、資産でも非償却資産がある。非償却資産は、借入の際の担保として活用される。故に、非償却資産と償却資産、負債は、密接な関係にある。そして、その均衡は、景気に重大な影響を与える。
 非償却資産の代表は、不動産であり、その根本は、清算価値にある。ただ、不動産の価値は、一物五価と言われるほど多様である上に、一定していないことを前提としなければならない。非償却資産は、非貨幣性資産でもある。非貨幣性資産とは、現在的価値と表示される価値が乖離している資産である。
 そして、非償却資産は、その設定の仕方によって評価価値が変化する。資産の持つ価値をどの様に置くかによって取得原価主義と時価主義に別れる。
 非償却資産を含んだ非貨幣性資産の評価とは、会計の基本に関わる問題であり、何に基準を置くかによって経済の有り様にも影響する。また、バブルや不良債権の原因にもなる。
 取得限主義は、不動産=取得原価(簿価)
 時価主義は、不動産=相場(時価)、ただし、時価の測定は、一様ではない。

 担保と借入とを巧妙に繰り返すとレパレッジ効果が期待できる。
 しかし、信用制度というのは、信用という概念の実体化である。信用という目に見えない、得体の知れないものを基礎としていると言う事である。それを忘れて信用を無闇に拡大すると信用が薄まり虚構へと変じてしまう。

 信用を必要以上に増幅することは、負債と負債本来の機能の分離である。つまり、働きとその働きの根拠が分離してしまうことである。

 サブプライム問題でも。投資と実需が乖離し、その結果、投資が投資を呼ぶという現象を引き起こしてしまった。

 更に、償却資産の代替物としては、物的貸借がある。借入というと現代では、金銭的なものと特定する傾向があるが、物的な借入もあり、金銭的な借入と、常に、比較対照しながら意思決定をする必要がある。
 貸借というと我々は、金銭貸借を思い浮かべるが、貸借関係は、金銭的な物ばかりでなく。物的貸借も人的貸借もある。物的貸借とは、レンタルやリースをさし、人的貸借は派遣のようなものを指す。これら、物的、人的貸借関係は、金銭貸借以上の効用を発揮することがある。問題は、物的貸借を負債と認識するか、費用として認識するかである。
 リース総額=一回あたり支払額×回数(時間)+残存額

 また、税務構造が加わり、経済活動の方向性を決める。税を考える上で重要なのは、税を費用、債務とみなすか、あるいは、利益処分とみなすかである。それによって利益構造、即ち、資本構造が違ってくる。

 時間的な軸の作用を換算するために、税効果会計が設定された。

 課税対象も重要な要素となる。課税対象が固定資産や資本金と言った外形的な対象とした場合、消費である場合、何等かの取引を基礎とした場合、所得とした場合で経済の根本が違ってくる。

 所得といっても企業は、損益を基礎とし、家計は、収入を基礎としている。それは、所得税の質に影響を及ぼしている。また、会計制度の在り方も違てくる。

 損益構造は、損益分岐点構造が有名である。

 市場価値は、価格と数量からなり。これに時間の要素が加味される。

 貨幣価値を現す関数の基本は、単価×数量×時間=総体的貨幣価値で表現される。それを構造化したのが会計制度である。そして、会計を構成する個々の水準によって収益構造は変化する。また、個々の要素の水準を調節するのは、場に働く作用がある。

 産業にも、損益分岐点がある。それが国家経済の骨格を形成している。

 初期投資が大きい産業ほど価格競争に陥りやすい。それは、初期投資の大きい産業ほど、固定費の水準が大きいからである。その為に、損益分岐点が高位になり、損益分岐点を超えるだけの収益を上げる事を最優先するからである。つまり、資金の回収を重視することで乱売合戦を引き起こしやすい体質を持っているのである。それが基幹産業だと深刻な影響を引き起こすことになる。

 また、原価構造も経済、市場構造を考える上では、重要な要素である。中でも、人件費構造は、所得構造に結びつき経済に重要な変化を及ぼす。

 産業の損益分岐点は、各種の水準の影響を受けやすい。例えば、為替の水準や石油と言った原材料の価格の水準、人件費(所得)の水準、生産量の水準、消費水準、在庫の水準と言った水準であり、中でも価格の水準の影響を強く受ける。
 この様な水準が急激に変化すると産業構造そのものが破壊されてしまうことがある。

 市場を単一な場、構造として捉えると、費用は、一番高い水準に向かい、価格は、一番低い水準に向かう。その結果、産業構造は、押し潰されてしまうのである。

 価格問題は、特に深刻な問題である。価格は、物価と所得の双方に決定的な影響を与える。
 その意味で価格は、安ければいいと短絡的に断定すべき事ではない。日本のメディアの中には、ただ安ければいいと安売り業者を称賛する者もいるが、安いには安いなりの理由がある。それが、本当に企業努力ならばいいが、不当廉売という場合もあるのである。それでなくとも、所得、雇用という観点からも価格は、適正な水準を保つ必要があるのである。

 負債による返済圧力は、インフレの時は軽くなるが、デフレになると重くのしかかる。負債のよる圧力の根源には、ストックの部分によるものとフローの部分によるものとがある。

 通貨の量の水準も物価に影響を与える。

 経済政策は、個々の要素、働き、主体、個々の部分にそれぞれあった政策をセットして行う必要がある。

 市場間の条件や環境、前提などが変化していながら、それを放置すると産業の空洞化などが起こり、労働と分配の仕組みに穴があく。

 故に、為替や価格の急激な変動を市場間で緩和するための仕組みが必要となる。その仕組みは、会計的仕組みや税制的な仕組みを基礎とし、各種の規制を組み合わせた仕組みである。故に、会計制度や税制度は、構造的で、相対的なものであり、絶対的なものではない。

 問題は、これらを結び付ける仕組みが重要になる。それが市場構造である。

 何にしても、強引な統一化は、構造を破壊する。
 無理に市場を統合しようとすると、産業構造は、押し潰される。かといって保護主義に走れば、市場の奪い合いになり、戦争の基となる。

 また、家計の基礎となる消費にも時間構造がある。

 日本人は、キャッシュフロー思考で、アメリカ人は、バランスシート思考だと言われている。(「世界金融危機はなぜ起こったか」小林正宏・大類雄司著 東洋経済新報社)アメリカ人は、資産があれば、借金をして資産価値を最大限に活用しようとするが、つまり、収入は、所得+借入金と言う発想をするが、日本人は、収入の範囲内で返済計画を立てようとする。

 経済の構造的改革と言っても容易いものではない。政策を実施しても短期間に効果が表れるとは限らない。特に、構造的改革は、短期的には、必ずしも良い方向に向くとは限らない。一見して何もしなかった時の方が良いようにも見えるものである。
 第一、構造的改革と言っても、意欲やモラルと言った意識変革から始めなければならない。

 意識やモラルの質的な変化が及ぼす影響も無視できない。
 サブプライムがこれだけ蔓延した原因も大部分を構成するプライムが飽和状態に陥り、旨味がなくなったことが原因の一つである。

 経済構造というのは、長期的に均衡する。その長期的均衡、時間構造を前提として、単年度、また、短期的均衡を測る必要がある。
 目先の利益ばかり追いかければ、この長期的均衡や資金的均衡が見えなくなり、結局、短期的均衡も失うのである。

 経済の有り様は、経済的倫理観をも変質させてしまう。また、経済的倫理観は、経済の有り様を変えもするのである。







                    


ページの著作権は全て制作者の小谷野敬一郎に属しますので、 一切の無断転載を禁じます。
The Copyright of these webpages including all the tables, figures and pictures belongs the author, Keiichirou Koyano.Don't reproduce any copyright withiout permission of the author.Thanks.

Copyright(C) 2001 Keiichirou Koyano