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所得と市場の成長


 恒久的に成長を持続することが可能であろうか、不可能である。
 それは、人件費について考えれば解る。

 人件費を考える場合、単純に市場の原理では語れない。それは、人件費の性格による。
 人件費に市場の論理を当て嵌めようとした場合、労働を商品化する事が前提となる。労働を商品化するとは、まず第一に、労働を流動化する必要がある。つまり、譲渡可能にする必要がある。第二に、労働の単位を確立する必要がある。

 労働を商品化するという事は、労働を両道化することである。労働を流動化するという事は、労働を譲渡可能な状態にするという事である。労働を譲渡可能にするためには、労働の抽象化、貨幣価値に換算することが前提となる。その上で、それを貨幣と交換できる状態にしなければならない。
 労働者から労働だけを抽象化しなければならない。つまり、属人的部分を労働から切り離す必要がある。その上で、それを貨幣価値に換算できるる状態にする。
 労働を標準化し、労働を単価と時間、あるいは、単価と実績の関数化することが前提となる。

 しかし、人件費は、所得という性格を持ち、生計費の基礎となる。その為に、属人的要素を排除することが出来ない。属人的要素とは、第一に、年齢である。第二に、家族構成である。第三に、物価と言った環境である。第四に、個人の能力や性格である。

 人件費、単なる労働費とは違う。それは、人件費の背後には、一人一人の人生、固有の時間が隠されているという事である。
 一人一人の人生は、固有のものであり、他に置き換えることはできない。結婚、出産、病気、能力、夢といったその人その人の一生に関わる出来事は、その人のだけの事である。故に、それに関わる生計費や出費も固有のものであり、住む場所や家族構成といった前提条件によっても違う。それらを一律にすることは不可能である。
 また例え、一律に捉えられたとしても年齢という時間的な要素まで一律にはできない。一般に、一定の年齢まで、つまり、出産から子育て期間中は、出費が上昇し、それ以後は、低減していく曲線を描く。この支出の曲線は、人間の労働能力の変化とは、直接的な関わり合いがない。むしろ、労働能力から言えば、二十代にピークを迎え、以後、漸減していく。
 年齢と伴の能力や技能が上昇するのであれば、年齢給や年功給は、成立するが、一定の年齢で能力が衰えていくとしたら早晩成り立たなくなる。
 仕事の内容によっては、若年層の方が効率や生産性は、上回る。特に、作業の標準化や機械化が進むと、熟練を必要としない仕事が増える。この様な仕事は、作業を単純な作業に置き換えるために、熟練を必要としていない。
 管理的業務も生産性という観点からすれば、必ずしも昇給の理由にはならない。
 スポーツを考えるとその点はハッキリする。身体的能力のピークは、二十代後半に来る。また、コーチ、監督だからと言って選手より高給を取れる保証はない。
 それに、管理職というのは、人数が限られている。組織のヒエラルヒーに基づいた構成にならざるをえない。

 この様に、年齢と、能力、生計、それに伴う職業上の実績とは、均衡しない。故に、一般に人件費は、効率や生産性とは別の基準が働くことになる。
 所得は、一律に平準化、標準化できない。所得を平準化、標準化できないのは、出費が属人的な要素、人生に基づくものであり、支出を平準化、標準化できないからである。

 仮に、年齢を基礎とした賃金体系を組み込むとしたら、定年退職まで均一の年齢構成にする必要がある。

 更に、生計には、生計固有の物価や金利による圧力が加わる。それが定昇圧力となる。

 この様なことから、人件費は、市場的な論理ではなく、共同体的論理、組織的論理が働く。人件費には、市場の基準や論理が作用していることを前提としなければならない。また、そこから、ワークシェアリングのような発想も生まれてくる。

 更に、日本型給与体系には、退職金制度がある。

 この事が、一定の年月を経ると人件費の負担が急速に収益を圧迫するようになる。これは深刻な問題である。人件費の累積的負担は、企業の内部留保を取り崩す以外に解決できないからである。また、競争力に想い足枷をすることになる。
 企業寿命三十年説というのは、あながち理由がないわけではない。それは、人件費負担の累積も一因だと考えられる。
 この様な人件費の負担を解決するには、早期退職制度や周期的な合理化、事業再編(リストラ)、年俸制や歩合給の導入、正社員の削減、パートアルバイト化、外注化、派遣社員の活用といった人件費の流動化を計らなければ解決できない。しかし、それは、同時に、企業の共同体としての機能を喪失することを意味する。
 仕事は、一生続けられるものでなくなるのである。そこから、疎外感や喪失感が生じる。また、企業に対する忠誠心も失われる。







                    


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